Q&A

はじめに

 このQ&A集は、「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制事業」が行う研修会(LCAS)の終了後に受講者に対して行ったアンケートに記載された質問に対し、研修会スタッフが手分けして回答を作成したもので、治療ガイドラインなどとは異なります。研修会のスケジュール上、十分な質疑応答の時間をお割けなかったことに対する補完の意味も含めて作成しております。受講者のみならず、小児がんの長期フォローに携わる様々な医療スタッフのお役にたてば幸いです。

Q&A

下記のリンクをクリックすると各項目へジャンプします。
●フォローアップについて ●成人科への移行について ●晩期合併症についていつ話すか ●病名告知について
●治療サマリーについて ●フォローアップ手帳について ●認知機能について ●二次がんについて
●放射線治療について ●生殖機能(妊孕性)について ●成人科の先生への質問 ●診療報酬など
●経験者への質問 ●AYA世代のがん患者 ●入院時の心理・社会的な問題 ●教育について
●その他・過去の質問
 
  • 合併症チェック票について

 こちらからダウンロードいただけます。ぜひ、ご活用ください。
>>合併症チェック票(PDF版) >>合併症チェック票(エクセル版)
 
  • フォローアップについて

Q
A 長期フォローアップをいつまで続ける必要があるかは、経験者の基礎疾患やがんの性質、受けた治療内容と実際に晩期合併症を発症しているか否かにより大きく変わり個別性が高いです。「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」ではフォローアップレベルとして診療情報を総合的に評価してどの程度の密度でいつまでフォローアップを継続するかの目安を示していますのでそちらをご参照のうえ個々の経験者についてご検討ください。
Q
A 固形腫瘍患者は疾患や治療内容が多彩なので一概には言えません。臓器合併症がなく治療介入が必要な問題がなければ、成人後は自己健康管理が中心になりますので、治療サマリーをお渡しし、化学療法や放射線治療による晩期合併症リスク情報をお伝えすることや、必要時の情報入手先をご紹介すること、そしてまずは一つ基点になれそうな医療機関を受診し、カルテを作っておくことをお勧めしています。普段はこれということがなくても、何かあった時に自宅や職場から救急車で行くような、そこそこの病院の診察券を持っているということが備えになります。小児がん治療後の問題をOne stopで診療して欲しいというのはまだまだ贅沢な話で、肺炎でもイレウスでも、何かちょっとした入院治療に対応してくれそうなところをまず確保し、予め自分の病歴と気を付けて欲しいポイントをお伝えして、何かあった時のお願いをしておくと受け入れは全然違いますし、先方にとっても混乱が少ないです(救急車も困らない)。紹介先は、血圧など内科的合併症が心配なら内科、イレウスなど外科的合併症が心配なら外科でいいと思いますので、具体的に対応して欲しいこと、起こりやすそうな救急事項を記載した診療情報提供書を作成します。緊急時は総合病院なら緊急検査にも対応しやすいですし、内部で対応するか、さらに高度医療機関へ紹介するかの判断もしやすいと思います。普段の健康管理は、風邪をひいた時などのかかりつけ医の確保と、職場検診、公的ながん検診が中心になるでしょう。余裕のある方は人間ドックを利用されるかもしれません。ただし一般人向けに考えられている職場検診や人間ドックは小児がん治療後としては内容が不十分なので、検診の中身を確認し、最低限の足りない部分(頭部照射後のMRI検査など。)は他で補う必要があることを伝えます(救急時の紹介先で、治療はできないが、具体的に指示してくれれば検査はできますと言ってくれるところも多いです)。これらのことは一度に行うと混乱が生じるので、段階を踏んで準備するのがよいと思いますし、小児医療側はサポート役として並走が必要なこともあるでしょう。治療が必要な合併症があれば、その合併症の成人移行を中心に据えて、上記を踏まえた周囲のサポートを固めていくのがよいと思います。
Q
A その病態・合併症ががんに起因しており、がん治療により軽快治癒するのではなく継続診療が必要な場合は、がん治療と直接の関係がなくても晩期合併症に含めます。「専門診療科でのフォローアップが必要な疾患特異的な問題」として「5B」に該当します。
Q
A 対応可能年齢は施設によって違います。入院・外来とも一定年齢で区切っている施設もありますし、フォローアップに関しては成人にも外来診療の余地を限定的に残している施設もあります。しかし小児施設の限界として、入院や、継続的な治療介入は困難なので、これらのことが必要な場合は、成人医療機関や、地域医療機関に診療を依頼する必要があります。引継ぎ先を探し、紹介先での診療が安定するまで、ある程度は小児施設での診療を平行して継続する必要があることも多いです。
Q
A 相手が、何をしてくれる人なのか、特に看護師の立場ですと、お話を聞く、ということもあるかもしれませんが、初対面の相手に、最初から本音を語る、ことは彼らにとっても簡単ではないと思います。直面しているかもしれない事柄で困りごとはないか、それについてあれば話してよいこと、一緒に考えたいことなどを専門家として、最初に経験者に伝えるなどしています。その内容が病気体験と直接関連している場合も、不確かな場合もあるかともいますが、相手の気持ちを引き出す、というよりも相手の話や思いをきちんと受け止める、という基本姿勢が大切かと思います。
また経験者にとっても初対面で何を話したらよいのか、と戸惑う場合もあるかと思います。話す内容に正解も間違いもありませんので、思春期にある経験者などの場合には、同じ経験者の声として複数のパターンで、他の経験者で起こりうる事柄やそれに伴う感情などの例を挙げるなどすると、そういえば・・と話はじめたりする場合も経験します。
Q
A PLSG長期フォローアップ委員会が作成した「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」では、代表的な小児がん15疾患を取り上げた疾患別フォローアップガイドラインとして、その疾患に対して1970年代頃から現代までに行われてきた治療による晩期合併症とフォローアップについて記載しています。また、臓器別・症状別フォローアップガイドラインでは、各臓器、症状に焦点をあてて晩期合併症とフォローアップを紹介しています。
AYA世代では、小児と同じがん種が発生する場合もありますが、30代以降になると乳がんをはじめ、成人型のがん種の患者さんが増えてきます。小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、AYA世代に主に発生するがん種の全てには対応しておりません。また、同じ疾患であったとしても、成長発達の途上にある小児とAYA世代(とくに成人)とでは、治療による影響は異なりますので、AYA世代がん患者さんに小児のガイドラインをそのまま当てはめることはできません。臓器別・症状別フォローアップガイドラインも同様です。
特に、心理、社会面においては、AYA世代がん患者さんには、世代特有の問題があることが知られており*、小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、こうした点については網羅しておりません。
ある程度参考にしていただける部分もありますが、AYA世代がんに対して対応できるかといいますと、不十分であると思います。
*参考文献 平成27-29年厚生労働科学研究時補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班 編 医療従事者が知っておきたいAYA世代がんサポートガイド 金原出版 東京2018年
Q
A 小児がんの患者さんを一生小児科医だけで見ていくことは、できないのではないかと思います。小児がんの患者さんは、小児がん自体は治癒していることが多く、治療の影響、あるいは小児がんそのものの影響で起こる可能性のある病気・病態のスクリーニング検査や診察をすることが必要なので、必ずしもがん拠点病院の成人科での診療が必要というわけではなく、近所の成人を診療される一般総合病院あるいはクリニックでみていただくのでよいと思います。しかしどこの病院でみていただくのであっても、診療の目安としてガイドラインに目を通していただくことは重要だと思います。
Q
A 長期フォローアップ外来では、原疾患の状態や身体合併症のみならず、心理的な問題や心身その他様々な要因による生活の支障も評価し対応する必要があります。生活の支障まで評価するには多職種で定例カンファレンスを持ち情報を共有し適切な対応を相談出来ることが確かに理想的です。しかし時間も人的資源も限られ理想が叶わない中で最も重点を置くべきは何かと言えばそれは身体面の適切な評価と対応です。体調を可能な限り良好に保つことは最大の社会復帰支援です。同時にそれにとどまらず出来る限り看護師を巻き込み外来の待ち時間を利用して身体や病気以外の事も話題にして情報収集に努めてみてはいかがでしょうか。その情報共有と対応の相談をするカンファレンスは定例でも不定期でも構わないと思います。
Q
A 長期フォローアップは、施設によって様々ですが、治療終了後、再発の心配が少なくなる時期から始めることが多いと思います。つまり治療終了後2~5年以後が多くなるのではないでしょうか。すでに晩期合併症がある方でなければ治療後5年を過ぎると1年に1~2回の受診になると思います。そういった間隔であれば、一人に対する診療時間は少なくても検査時間を入れないで30分は必要になり、現在治療をしている患者さんとは別の診療時間を設けて診察をする必要が出てくると思います。できれば、小児内科的な診察だけでなく循環器や内分泌の医師の診察、歯科が併設されている施設では歯科医師の診察、心理士との相談などを1回の受診で出来るのであれば、それが望ましいと思います。この場合は、病院での滞在時間は長くなることでしょう。受診日1日で何をやるかは、施設ごとの体制もあるので、決まり事ではないと考えています。事前に心エコー検査の予約やMRI検査の予約が必要なことも多いので、全てを1回の外来受診で済ませることは難しいことが多いのではないでしょうか。対応する職種に関しては、問診は看護師が中心になるのがよいでしょうし、採血や検尿、そのほかの検査の内容はできれば外来受診の前に多職種カンファレンスなどを行い、決定していくことが望ましいのではないかと思います。
Q
A フォローアップに必要な検査をどこまでするか、特に患者負担になる場合にどこまで正当化されるのか、と言う問題は難しい点を含んでいます。まだ長期フォローアップ時に必要な検査はエビデンスに乏しいのが現状だからです。特に検査費用が高くなるMRIなどは悩むことが多いと思います。最新のCOGガイドライン(Ver.5.0)でも、できるだけルーチンの定期検査は少なくして、フォローアップ時に臨床的に徴候や症状があれば検査を追加するというスタンスになっています。ただ薬物療法等の対処法がある甲状腺機能低下や心・腎機能低下などは、リスクのある患者では年に1回(心エコー検査は2年に1回)はスクリーニングしておくということは考えても良いのかと思います。対処方法がない場合には、必ずしも検査はせず、臨床的に問題になったときに相談するのでもやむを得ないかもしれません。
Q
A アントラサイクリンの換算に関して、以前のCOGのガイドラインでは、ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.83でしたが、その後ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.5という報告が出たため、2018年版では,ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.5に変更されました。しかし2019年のLanset Oncologyでは、ドキソルビシン1対し,ダウノルビシンは0.6との報告がされています。論文の対象者や解析の方法などによってもある程度の変化はあると考えられます。心毒性はアントラサイクリンを100mg/m2程度使用しただけでも多少の影響はあるとも言われており、多く見積もっておいた方がよいのではないかと考えられます。1:0.5も間違いではないし、COGの現在のガイドラインに掲載されているのでこれを使用してもよいですが、現在のJCCGの治療サマリーなどは1:0.83を使用しており、現在関係者の間で協議されているところです。イダルビシンも2019年の報告では1:10.5とされているので、今後協議する予定です。
Q
A 小児がん経験者において症状が出現する前に検診をすることによるメリットを対照群との比較で統計学的に証明したコホート研究は私の知る限りは存在しないと思います。もちろん症例報告レベルでは、内分泌検査などでは実際に多く経験するわけですが、検診を行わない群との比較がなく、検診を行うことで生存率やQOLがどのくらい向上するのかは不明です。心機能に関しては、あくまでシミュレーションですが、COGのガイドラインに沿ってスクリーニングすることによって、2年に1回心機能検査をすることは医療経済的に見合う効果があるといわれています。(Yeh JM et al: Ann lntern Med 160:661-671,2014 およびWong FL et al. Ann Intern Med 160:672-683,2014)
Q
A いつまでフォローするかの目安は、「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」をご覧ください。「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」はただいま改訂作業中ですが、当面は日本小児がん研究グループ(JCCG)のホームページから現バージョンがダウンロードできます。いずれにしても、思春期から成人期になるプロセスで、自分の疾患・受けてきた治療・将来のリスクに関して理解し、定期受診などの保健行動がとれるようになっていることが望ましく、また医療側では、成人後にかかることのできるクリニックや相談機関を具体的に紹介しておくことが大切です。
Q
A その他にもフォローアップ手帳は施設独自のものを使用されている場合もあります。ご希望があればお渡しして使い勝手のよいものを選んでいただければよいのではないでしょうか。
Q
A 誰を対象としたどのような情報リーフレットかによって入手可能なものと未開発なものがあります。ウェブサイトから入手可能なツールとしては例えば以下のようなものがあります。ご利用の際は各サイトの注意をよくご確認のうえ各利用者さまの責任のもとでお願いします。
●小児がん全般:国立がん研究センター小児がん情報サービス
●晩期合併症(一般向け、医療者向け):がん情報サイト
●晩期合併症(本人用):年齢別教育ツール、JPLSG会員のページ→長期フォローアップ→「教育ツール」から、小学生低学年用のパワーポイントファイル、小学生高学年~中学生用のゲーム、高校生以上用のフラッシュアニメーションがダウンロード可能です(施設IDとパスワードが必要です)
●小児がん経験者の復学:スクリエ(復学支援プロジェクト)
●病気の子どもの理解のために(国立特別支援教育総合研究所、教育関係者向けパンフレット)
Q
A 日本小児血液がん学会HPに「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップの研修会(LCAS)」がございます。そちらのQ&Aのコーナーにこれまでの研修会で寄せられた質問とそれへの応え(回答例)も掲載されています。 また、医療以外の具体的な支援で院内他職種でもその支援の対処が難しいなど、迷った際には、小児がん拠点病院のがん相談支援センターにお尋ねになったり、上記のHPへの問い合わせをすることもよいかもしれません。(ただし、かなり個人的な難しい状況の質問には回答が難しい場合もあります)
  • 成人科への移行について

Q
A 成人診療科への移行が困難な理由がどこにあるのかによるのかもしれません。血液腫瘍であれば血液内科に引き継いでもらうことが多いと思いますが、全身性のGVHDの治療中の方や重篤な臓器障害のある方は、治療の引継ぎがなかなか難しいのが現実で、今のところは個別に治療の継続を打診していかざるを得ないでしょう。複数診療科に関わっていただく場合は、院内の連携構築に熱心な施設がねらい目かもしれません。造血細胞移植後でも、甲状腺や性腺ホルモンの補充がメインという方は、内分泌代謝科や婦人科、プラスαに紹介してホルモン補充療法を継続してもらいつつ、本人と紹介先に、その他に気を付ける晩期合併症リスクや検診について簡単に記載したリーフレットなどをお渡ししています。あまり細かいお願いをするとかえって敬遠されてしまうので、お願いしたいことを具体的に箇条書き3つ程度に留めます。紹介先での診療が安定するまで、ある程度は小児施設での診療を平行して継続する必要があることも多いです。トランジションには本人の疾患、治療内容、晩期合併症の理解とともに、服薬管理や受診行動の自立も必要なので、早め早めに本人や家族の準備を進めていきます。
Q
Q
A2019年8月1日からオープンした固形腫瘍観察研究新システムの追跡調査にはこの合併症チェック票が組み込まれています。また、こちらのHPでもダウンロードが可能です。
Q
A 成人診療科医には、成人診療科に何をしてほしいのか、どのような役割を期待されているのかを小児がん医療者から明確に伝えることが大切です。また総合診療的・予防的な視点をもつ小児科診療と問題解決型の専門分化した成人診療科で、診療スタイルが異なることを患者・家族が十分理解できてないことで迷うことがあること、移行当初は何か成人診療科医が困ったことがあれば、小児診療科医がいつでも相談にのることを約束しておくことも重要です。小児がん医療者は患者離れを上手に行いながらも、常に様々な問題の相談者として小児がん経験者を「陰ながら支える」という姿勢も大切と思います。
Q
A まず大人になった時には、必要な医療的ケアが技術的に小児医療の枠を超えたものが出てくることを納得してもらいます。成人医療にうまく移行できることが最終的には小児がん経験者の医学的管理の面でもより適切な医療が提供されうること、また本人の自立心を育てることにつながることを理解してもらいます。また「自分の体のことを十分把握していない患者の診療には抵抗があり、そのような状況下の受診は患者に不利である」という成人診療科医の意見をふまえ、成人医療移行に向けた患者教育も必要です。大人になれば、自分の健康は自分で守るという自覚と年齢相当のヘルスリテラシーが必要になること、総合診療的・予防的な視点をもつ小児科診療と問題解決型の専門分化した成人診療科で、診療スタイルが異なることも前もって患者・家族に説明しておくことを忘れてはなりません。また移行当初は、何か成人診療科医で困ったことがあればいつでも相談にのることを約束しておくことも重要で、小児がん医療者は患者離れを上手に行いながらも、常に様々な問題の相談者として小児がん経験者を「陰ながら支える」という姿勢も大切と思います。
  • 晩期合併症についていつ話すか

Q
A やっと診断がついて、さあこれから治療開始というときに前もって晩期合併症について詳細な情報を提供することは、患者/家族の闘病意欲をなくすことにも繋がり、あまり適切ではないように思われます。一般的には治療を開始してしばらくたち、患者の特性がわかり、家族と人間関係が構築されてから、治療に伴う晩期合併症に関しても段階的に説明していくことが実際的と思います。それはそれで良いと思いますが、いくつか例外があります。
1つは最近意識が高まっている生殖機能(妊孕性)温存です。男性の場合には、化学療法が始まると段階的に精子の濃度や質が落ちるといわれています。女性でも治療が進むと卵子の採取が困難になることがあると言われています。そういう意味では思春期以降の小児・AYAがん患者においては、診断時が最も良好な生殖機能温存のチャンスであることは間違いありません。しかし総合的に考えると、診断間もない、病名告知(Truth-telling)とほぼ同時に「がん」の話と生殖機能温存の話をして患者家族の混乱を招かないかという危惧があります。日本癌治療学会で作成された「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性ガイドライン」も、基本的にはがん患者に対しては原疾患の治療が最優先であり、その治療が遅れることなく遂行されることが大原則というスタンスです。その基本を堅持しつつ、治療開始なるべく早期から妊孕性温存療法の有無に関して妊孕性温存療法の可否を判断しやすくなり、最終的には小児・AYA患者のサバイバーシップ向上という恩恵がもたらされることを目指して、がん治療医と生殖医療を専門とする医師との密な医療連携することが重要と考えます。
もう1つは治療選択に際して晩期合併症の問題が関わってくる場合です。放射線をあてるかあてないか、あてるとしたら線量や線源(陽子線などの粒子線を使用するのか)など、標準治療に複数の選択肢がある場合には、期待される治療成績と共に晩期合併症の起きる可能性などの情報も治療選択に関わってくる可能性があります。その場合には、早めに詳細な晩期合併症の情報を提供する必要が出てくるかもしれません。
臨床研究でプロトコールが決まっている場合や上記のような問題がない場合には、診断間もない時期に晩期合併症の話を詳しくする必要性は低く、ある程度治療が進み一段落してから(外来治療に移行する時期、次の治療段階に進むときなど)詳しく説明するなどあくまで希望を持って治療に立ち向かうことができるよう支援することも大切ではないかと考えます。
ただ、晩期合併症のリスクを伝える理由として、我々医療者は「がんだからといって治ればそれでいい」とは考えていないこと、10年、20年、それ以上の先のことまで大切に考えて今からの治療に最善を尽くすと伝えることで、治ることを前提とした説明であって、死を容易に想起させる重大な疾患を発症した子どもの親に、一家の危機にいきなり直面した親に、少しでも生きる希望と医療者が味方になる、力になることを伝えられるのではないでしょうか。がんになった以上、晩期合併症のリスクは必ずあって、生活はおろか価値観まで変わってしまうような重大な事態ですが、起こったことや抱えるリスクは変えられなくても、その家族や本人にとっての意味付けは変えられるかもしれません。
  • 病名告知について

Q
A 最近はほとんどなくなりましたが、昔治療した家族の中には、もう元気になったのだから病名を告知して患者を迷わせたり、悩ませる必要はないのではないかと主張されるご両親は確かにいます。辛いことは全て親が背負って、患者自身には背負わせたくないという、親心と言えば親心なのでしょうが、子どもの力を信じて子どもにTruth-tellingを行う事は、患者さんの将来にとって重要なことと思います。親が一生子どもの面倒をみていくことはできず、子どもは親から自立していくことを考えると、小児・AYAがんの患者が自分の病気のことを正確に理解しておくことは、将来の晩期合併症のリスクと向き合うためにも、健康を維持増進していくためにも必要不可欠であると思います。患者自身の力を信じましょう。
ただ「頑なに拒む」ということは母または父の「告知に関する不安、心配、気持ち」が心の奥底にある可能性が高いと思われますので、その部分を看護師や臨床心理士・保育士などに聞き出してもらうことも大切だと思います。父または母が「告知にまつわる不安などの気持ち」を医療者に言葉で表出することにより父または母の中で思いや考えが整理されて「聞いてもらえた」という気持ちにもなれて、我々医療者も患者さんや親への理解が進み悩んでいたポイントが明確になったり、告知への抵抗が和らいだりすることもあるかと考えます。
Q
A 乳児期のがん罹患などでは、診断時・あるいは治療終了時といえども子どもの理解度からTruth-tellingは困難だろうと思います。
子どもに病気のことを伝えるときに注意すべきことは、以下の3点です。
1.絶対にうそをつかない
2.年齢や理解に応じて、子どもにわかる言葉で説明する
3.希望を失わせないような雰囲気と周囲への配慮を十分に行う
小学生になったら、疾患名の正確な理解はできなくても、比喩を使えばある程度病態の理解はできると思います。小学校の高学年になると、体の仕組みと共に説明すれば病態だけでなく病名の理解もある程度可能と思われます。その時には、子ども自身に病気を説明した理由(病気を知ることにより真正面から立ち向かえること、友達とオープンに話し合え悩みを共有出来ること、信頼関係が強くなること、同じ子供同士でコミュニケーションがとれること、検査や治療の理由が解ること、入院や病気が仕返しではないことなどの利点)を適宜説明することも大切です。
患児への病気説明は、その子の人生や生き方について病気を度外視しないで話し合える利点があり、さらに病気を克服した場合はその達成感も持て、また病気の人に対する共感の心を育てる働きもあります。不幸にして再発や難治化した場合は、病気の状態を正しく把握してターミナルケアも含めた治療選択を自ら行い得る事が期待されます。
Q
A 前述の「晩期合併症についていつ話すか」で説明したように、必ずしも病初期に晩期合併症の詳細を全て説明する必要はないと思います。小児がん経験者も大人になります。大人になれば、自分の健康は自分で守るという自覚と年齢相当のヘルスリテラシーが必要になります。その点を考えると、少なくとも治療終了時には、がんの情報と受けた治療情報を元に、何らかの形で今後の晩期合併症のリスクを伝えておく必要はあるのではないかと思います。リスク情報を知ることは、心理的にはマイナスになる可能性もありますが、長期的には自分のリスクを正確に知ること自体は、自分の将来設計をしていく上でも極めて重要であると思います。
  • 治療サマリーについて

Q
A 複数の施設で治療された症例に関しては、治療サマリーの作成に困難を感じることが多いと思います。特に治療後時間が経てば経つほど、担当医が交代したりして、正確な情報を得ることが困難になります。そのためにも、その患者さんのゲートキーパーになる施設においては、治療のたび毎に、その治療内容の正確な情報を治療施行施設から診療情報提供書として入手しておくことが重要になります。陽子線治療で専門施設にお願いしたとき、手術で専門施設に移動した場合などです。また紹介施設にとっては負担になりますが、転院時には治療サマリー(それまでの自院での治療内容のまとめ)を作成して、それを紹介状に添付して紹介することをお願いするのも、今後は有効かもしれません以前中川原先生が病院電子カルテデータの抽出やどこでもMy病院のようなクラウドシステムを開発されていましたが、継続性と個人情報管理の敷居が高く、患者ごとのクラウド等利用した情報集約の予定は現在の所ありません。
Q
A ご指摘の通り、かなり以前に治療を受けた方や、再発、合併症等のためプロトコール通りでない治療を行われた患者さんでは、全ての薬剤について正確な投与量を把握することが困難な場合があります。こうした方に対しては、現在はpdf版のみの対応ですが、「短縮版」の治療のまとめがあります。短縮版では、晩期合併症の可能性がよく知られているアントラサイクリン系、プラチナ製剤、VP-16、アルキル化剤、延べ1年以上のステロイド投与に絞って、投与歴が「有」か「無」かを記入する形式となっていますので、短縮版治療のまとめをご活用いただければと思います。また通常版をご使用になる場合は、把握できる範囲での記載で結構かと思います。
  • フォローアップ手帳について

Q
A 分子標的薬や抗体製剤などは、歴史が浅いこともあって、一部の薬剤では長期的な影響が明らかになりつつありますが、多くは晩期合併症についての情報が少ないのが現状です。薬剤にもよりますが、投与歴の有無、連日投与する薬剤では投与期間、間欠的に投与する薬剤では投与回数などがわかるようになっていればよいのではないかと思います。
Q
A はい。FU手帳はENT時に「治療のまとめ」に記載(途中までで良い)してお渡しください。
その際「外来で行う治療の図表」という欄がありますので、併せてご利用いただくと、外来治療の進捗確認に役立ちます。
治療が終了する際に改めて「治療のまとめ」を追記載してください。毎回の受診ごとに「17.外来問診票&受診記録」に追記載を行い、手帳の必要性を患者さんご家族に啓発いたします。
記載される先生方には大変お手間をおかけします。患者さんアンケートより回答者の約4割に「治療開始後の早い時期に手帳は受け取りたい」という希望がありましたので、FU手帳をまめにつけることは長期フォローアップのモチベーション向上に役立つものと考えます。是非ご協力をお願いします
Q
A FU手帳や治療サマリーにはmg/kg(またはmg/m2)で実際に投与された通り記載してください。最新版の治療サマリー(JCCG長期フォローアップ委員会作、ver4.3)では入力の際に単位をどちらでも選択できるようにしています。将来2次がんを発症した場合も、結局のところは疾患情報とその時のPSや主要臓器機能などを考慮して治療は選択されます。そのためにmg/kgをmg/m2に換算する必要はないと思います。
Q
A フォローアップ手帳は個々の施設で作成し使用している場合もありますが、JCCGの長期フォローアップ委員会が作成し、LCASでも一例として使用している手帳は、昨年度は、小児がん拠点病院の各地域ブロックの代表7施設に配布し、そこから連携病院へ配布をしていただきました。今年度は、患者会からの要望も大きいので、全国患者会ネットワークに参加している43団体で配布を希望しているところ、昨年度のような小児がん拠点病院を介しての配布、またLCAS参加施設で要望があった施設への配布などを考えています。ハートリンクから資金援助をしていただいています。
  • 認知機能について

Q
A 視覚障害のある子どもの発達診断では、感情・意思・思考・言語・認知・社会性など様々な領域への影響を推測しながら評価することが望まれます。一般標準化された認知機能検査は、視覚を介して実施される検査項目が含まれるため、盲児には適用できません。このため、既存の認知機能・知能検査を実施可能部分に限って実施したり、課題提示の内容や回答方法を改変して実施するなど、得られたデータから推定した評価が行われています。改変した検査の解釈のためには、本来の認知機能検査のねらいと評価基準を理解している必要があり、熟練した専門家が実施しなければなりません。また、保護者評価による発達診断テストも参考とされますが、解釈については、視覚障害の程度や生活状況をあわせて慎重に行う必要があります。発達支援においては、生活状況の観察や、発達支援を行いながらの、認知の特徴の把握が欠かせません。これにより、検査では把握できない実体把握が可能となります。
 盲学校では、入学時に、視覚機能について医療機関の診断を取っています。入学時に視力があっても進行性の病気をもつ子どもは盲学校で教育を受ける場合があり、疾患の管理や義眼の装着など医療機関との連携が必要となることがあります。盲児には、定型発達の重要な時期に「発達の壁」があり、そこでつまずくと、発達の遅延をより長くしたり、自己刺激的な行動が出てきたりします。この壁を超える適切な療育・教育、指導が重要ですので、早期に支援の必要性を判断し、連携した支援を始めることが求められます。  例えば、網膜芽細胞腫の長期フォローアップでは、診断時(乳幼児期)から長期に亘り、診察していますので、視覚障害のある場合、眼科医や小児科医が診て発達の遅れの有無と発達検査の必要性、患児がもつ力をどのように伸ばすのがよいかなどをその時々に評価し、提案をしています。両側性網膜芽細胞腫では、認知発達の遅れがみられることがあります。網膜芽細胞腫を理解している臨床心理士が発達検査を実施し、発達の遅れがあると診断されれば、1歳6か月、2歳、それ以降は就学前まで年1回、定期的に発達評価を行います。評価には、広D-K式視覚障害児用発達診断検査や新版K式発達検査が用いられています。時に、網膜芽細胞腫で重度の発達遅滞を認める場合には、13q- 症候群などの染色体異常がある可能性がありますので、臨床遺伝専門医が遺伝相談の中で対応します。
 視覚障害を生じるがんの種類により、対応は異なりますので、専門医、視能訓練士、臨床心理士、看護師、療育や特別支援学校の教員などが連携した支援が重要です。
Q
A 化学療法後には、注意欠陥障害、処理速度低下、複数同時作業力低下、巧緻運動障害、高次脳機能障害という一連の神経障害をきたす場合があることが知られており、ケモブレインまたは化学療法関連認知障害(Chemotherapy-related cognitive impairment (CRCI))と呼ばれ、成人および小児の、特にメソトレキセート(MTX)を使用するレジメンでの発症がよく知られています。小児領域ではケモブレインという用語はほとんど使用されていないと思いますが、小児では放射線治療を併用する場合が多く、放射線治療後の認知機能障害がより重篤なこと、発達途上の小児ではそもそも神経心理や社会生活は年齢とともに変化し、治療前との比較というより成長発達への影響という意味でとらえられてきたこと、成人領域では晩期合併症を問題視し始めたのは比較的最近でケモブレインという用語が治療前との変化という意味で使用されてきたこと等が理由ではないかと思われます。MTXによる認知機能障害の機序ですが、MTXがミクログリアを活性化させ希突起膠細胞系列のダイナミクスや星細胞の再活性化を障害することが報告されており、これらが長期的な認知機能障害につながるのではないかと考えられています。
  • 二次がんについて

Q
A 小児がん経験者では、これまでに多数のコホート研究が報告され、治療後 20 年間の二次がん累積発症リスクは 2~5%で、これは一般集団で推定される値よりも標準化罹患比(SIR)で 3~20 倍高いといわれています。AYAがん患者の二次がん研究はまだ多くはありませんが、最近報告された研究(Bright, CJ et al: Lancet Oncology, 2019)では診断後35年で12-26%(原疾患によって異なる)とされ、小児がん経験者よりも高いくらいですが、一般集団のがん罹患が多いのでSIRは1.3-2.0程度です。
 小児がんやAYAがんで二次がんのリスクが高くなる理由としては、遺伝的な要因が一部存在すること(Li-Fraumeni症候群など)、発育盛りの時期に発病・治療をすること、治療終了後の生命予後が長いため潜伏期の長い合併症が検出されやすいなどが考えられます。
Q
A ご指摘のように、そもそも甲状腺の超音波検査を行うと、一般集団においてどの程度の頻度で異常が見つかるのかというエビデンスが少なく、異常所見が見つかり不安になると言うことはあると思います。
 小児がん長期フォローアップガイドラインハーモナイゼーションの結果(Clement, SC et al: Cancer Treat Rev 63:28–39,2018)では以下のように書かれています。
・甲状腺への放射線照射もしくは131I-MIBG 治療を受けた経験者は二次性甲状腺がんのリスクを持つ
・ 症状があるなしにかかわらず、甲状腺腫瘤が見られたら医療機関に相談する
・ 甲状腺への放射線照射を受けた経験者は、二次性甲状腺がんのスクリーニング方法の長所・短所を注意深く考慮した後に、サーベイランスの方法を決定する
・ サーベイランスは、甲状腺の触診と超音波検査とどちらかのスクリーニングが推奨される。2つの方法の長所・短所を説明し、経験者の希望を考慮する。良性か悪性かを決めるのに侵襲的な手技を必要とすることがあり得ることを説明しておく。異常が認められなかった時には、触診の場合には1–2 年毎、超音波検査の場合には3–5年毎のフォローアップが推奨される
・ 甲状腺がんの治療に熟練した施設では、適切な放射線読影や臨床的なリスクの評価で不必要な侵襲的な手技を少なくするために、超音波検査と針生検が推奨される
・ 定期的なサーベイランスをしない場合においても、医学的なフォローアップ時には甲状腺の触診を推奨する
・ 何らかの甲状腺腫瘤が認められたら、甲状腺専門医にコンサルすることが推奨される
  • 放射線治療について

Q
A COG のフォローアップガイドラインは、晩期有害事象のスクリーニングやマネージメントを行うために、リスクの高い群を効果的に抽出するためのツールです。従いましてAgentやrisk factor として挙げられているものが、その有害事象の原因であると帰結するべきではありません。COGのガイドラインの甲状腺がんのAgentにリストアップされているような頭蓋照射、ワルダイヤーの照射は甲状腺がんの誘因とはなり得ません。しかし頭蓋照射を行った患者が頸部の照射の既往があったり、神経芽腫の患者であったりする可能性がありますので、スクリーニングにおいて、着目すべき点にはなります。
 一方、全中枢神経照射では、脊髄を真後ろから、照射することが多いため、脊髄の前方にある甲状腺が照射されることになり、このため甲状腺がんの頻度が増加すると考えられています。散乱線によるものかという、質問に対する回答は控えさせていただきます。画像診断では散乱線という表現が使われますが、放射線治療では散乱線による現象と、そうでない放射線を区別して議論することはできません。「リスクを取る」という表現については、慎重に考えていた方が良いと思います。大辞林によると、「リスクを取る」とは、あえて危険に挑む、という意味のようです。標準治療を、あえて危険に挑むという認識を持たせるのは、治療やその後の有害事象や、経過観察の意義について、誤った認識を持たせることになります。
  • 生殖機能(妊孕性:にんようせい)について

Q
A 卵巣組織凍結に関してですが、がん治療まで時間的余裕が無い場合、初潮開始まえの小児がん患者などがその適応として考えられています。なお、日本産科婦人科学会によって認定された施設でのみ対応が可能となっております。ランダムスタート法でも2週間は要してしまいますが、最近では生理周期に関わらず卵巣刺激を行うランダムスタート調節卵巣刺激が導入されつつあり、治療開始までの時間を有効に利用できるようになりました。「生理周期とずれて3週間くらいかかり」に対しますコメントとなります。
Q
A 海外からの報告では、非ホジキンリンパ腫もあげられています。原則として、卵巣に腫瘍細胞が存在すると考えられる疾患や進行状態がMRDとして問題となります。
Q
A 卵子凍結を行う場合、一般的には月経周期に則った形で採卵を行います。例えば、月経3日目から卵胞刺激ホルモンの注射を開始し、卵胞が約2cmになるまで2-4日おきの採血・超音波モニタリングのもと、連日注射を行います(調節卵巣刺激)。通常は卵胞が育つまで10~14日程度かかり、卵胞が育った時点で採卵を決定します。なお、調節卵巣刺激には内服薬を用いる方法がありますが、発育する卵胞数が多いとはいえないので、注射を用いた刺激方法が選択されることが多いと思います。また、近年は月経周期に則らないで調節卵巣刺激を行う方法も開発されております(ランダムスタート法)。
Q
A 卵巣組織凍結を行う場合、基本的には(回答者施設では)手術前日に入院していただき、手術は一時間程度で終了します。その後、手術翌日(場合によっては当日)から食事を開始し、術後二日目に退院としています。なお、手術を行うためにはインフォームド・アセントが必要だと考えておりますので、妊孕性温存の説明を別日に行う必要性があります。
Q
A 数日で帰っていかれます。数日で帰って行かれる状態の患者さんのみが適応となります。状況によっては、前日あるいは当日のラボデータや状態によって、卵巣組織凍結をキャンセルせざるを得ないケースもあります。がん治療医と妊孕性温存治療医との密な連携が必要となります。
Q
A 生産率については、文献的な報告をもとにしてお話ししており、特にDonnezらのレビューから情報提供しております(Donnez, New England Journal of Medicine, 2017 PMID 29069558)。その文献では妊娠率は29-42%で生産率(流産を考慮したもの)は23-36%となっております。ただし、これらは検討症例数も多くないことから、今後変化する可能性は十分にあることも付け加えてお話ししております。また、妊娠の方法については体外受精を選択せざるを得ない場合もございますが、体外受精に関しても極めて詳細ではないもののお話しさせていただいております。
Q
A どのように受けていくのか、ということについては、それまでの経験や親や医療者を含めた周囲の関わりにより、個々にかなり差が生じるのではないかと思います。またその個人にとっても、その時大切にしているものや関心事はその方のライフイベントやまた周囲との関係性などで変化もします。実際に、思春期の経験者がその時期には、不妊の可能性であることにについて「自分は別に子どもいらないので大丈夫」と言っていたとしても、彼氏ができたり、それが結婚などを考える関係になると、不妊の可能性のことが気になり、それについて相談してくる場合などもあります。経験者がそのようなことを体験したり感じたりしうることを予測しながら、長期フォローアップの中で、体験者の感覚を捉えることが大切かと思います。
 また、過去の説明の程度がはっきりしない経験者が外来に来た際に、その時の経験者にとって不妊の可能性を聞くことが与える影響が大きい場合などもあるので、成人だからといって不妊の可能性について一方的に説明するなどすることがないように、看護師、心理士など多職種で計画的な関わりをすることが望ましいかと思います。質問の主旨とは少し異なるかもしれません。
Q
A こういう場合、子ども自身の闘病や入院の記憶が曖昧、または欠落していることが予想されます。伝えるべき最も大切なことは「なぜこれまで定期通院が必要だったのか」「なぜこれからも定期通院が必要なのか」です。それを伝え理解してもらうためにはおのずと病名や合併症の説明が必要になります。まずは定期的に通院する当の子どもがどこまで記憶していて今どう感じているかが大切です。
 「どうしてまた来年も病院に来ないといけないの?」と感じているならその時が好機でしょう。子どもから疑問の発信がない場合は進級や進学を契機に定期通院に関する思いを聴き、いつ、誰から、どう話すか家族と相談するのがお薦めです。それには折に触れて普段の子どもの様子や発言を気に留めておくことが大切だと思います。看護師や心理士、保育士、CLSなどから子どもや親の情報を得て相談することも良いでしょう。
 臓器特異的な合併症の説明は、検査や治療が必要な時、あるいは生活に影響が出る可能性がある時などが好機になり得ます。低身長なら負荷試験を行う時、妊孕性なら学校の保健の授業で性について習う時またはTanner Stageの評価をする時、手術痕なら水泳の授業が始まる前、などはいかがでしょうか。
 これらには正解も間違いもありません。病気や体のこと以外も普段から率直に話し合える関係性の構築を心掛け、多職種で協働して子どもと家族を理解し情報共有していることが大切です。
Q
A 妊孕性温存に必要な処置をすることも、抗がん剤の治療を開始することも、本人の納得の上に行うことが、基本となります。病気を告知することが不安な親の気持ちを聴きとりつつ、親を励ましサポートをしながら、病気の説明、治療や治療の影響の説明、妊孕性温存のための処置の説明を併せて行いましょう。妊孕性温存のための処置の説明は、産婦人科や泌尿器科の医師と連携して行います。子どもがよく理解できるように、子どもの発達に合わせて絵などを用いながら、最大限の工夫をして説明をします。しかし「妊孕性」を実感をもって理解することは、思春期の子どもであっても難しいかも知れません。それでも、医師がきちんと説明すること、また、父や母(親権者)はどう考えているのかをきちんと伝えていくことが大切です。
Q
A 採血によるホルモン検査の値など合わせて総合的な判断で、定期的な月経、なおかつ女性ホルモンの正常値が継続していれば、早期に婦人科受診を進める必要はないかと思います。思春期以降の患者で、治療の合併症から、妊孕性についてあらかじめリスクが高いことがわかっている場合、今後の移行の時期も考慮して、早期に婦人科受診を進めること(紹介)はよいかと思います。移植など治療内容によっては、治療中から婦人科との連携を図っている施設もあります。
  • 成人科の先生への質問

Q
A 治療科の医師は、専門の領域の有害事象に注意は注ぎますが、他領域にはなかなか注意が回らないのが実状です。看護師さんはフラットな目で患者と接する事ができるので、脳腫瘍患者であれば循環器領域や内分泌領域(甲状腺や副腎)への関心を示して頂きたいと思います。特に、この2領域は全身倦怠感や注意力の低下等が最初の症状であることが多く、この愁訴は医師に面と向かっては言いにくい事柄でもあります。簡単な声かけでも良いのでお願い申しあげます。
 また、学業不振や職場での不具合(上司・同僚との関係が上手に構築できない)などの相談を気軽に出来る様に外来で務めて頂きたいと思います。長期追跡患者は半年に1回、1年に1回程度の外来受診となろうかと思います。滅多にない外来ですので、むしろ3週回しの化学療法患者より、患者サイドは話したいことが多くあると思います。是非、お話しを聞き出して頂きたいと思います。そのためにはとにかく顔見知りになっておくことです。私は長期追跡を阻害している大きな要因は患者・家族への継続的な接触が円滑にできないことだと感じております。医師の転勤(主治医の交代)はその最たるものですが、外来看護師の短期間での部門変更もその要因と考えてよいかもしれません。マンネリはダメですが、毎年新しい看護師さんというのでは、信頼関係は構築できません。病院管理者にも是非注意喚起をしたいところです。
  • 診療報酬など

Q
A 小児・AYA世代がんに対する長期フォローアップの重要性についての成人領域の医師の認識が遅れていることは否めません。特に、消化器がんなどには治癒後のフォローアップは5年までと記載されているものもあります。この認識を変革すること、移行期医療も含めて小児、AYA世代がんを成人領域の診療科に如何につなぐかが課題となっています。上手な連携をとるためには、まずは患者個人個人が自分の病態を把握して成人になったあとはかかりつけ医を見つけて相談し続けることだと思います。そのためにも、患者に正しい情報を周知することが第一で、この病態を理解してくれるかかりつけ医を連携することが現実的と考えます。ライフステージに応じたがん診療が第3期がん対策にもりこまれています。こうした状況は、診療報酬加算の働きかけには追い風ですが、まずは、成人領域も含めて長期フォローアップを行うことで患者にどの程度メリットがあるのか(できれば医療経済的に)を示すことが診療報酬加算へは重要であり、そのエビデンスを集めて学会としては働きかけを行っています。
Q
A 現在、小児がん拠点病院が再度認定され、それとともに今回は連携病院の指定がおこなわれます。ネットワークを介して、小児がんやAYA世代がんの患者の診療やフォローを行う体制が組まれようとしています。連携病院の要件の中に長期フォローアップ体制の構築が求められているので、この事業の研修を受講することともに体制構築の必要性を大学病院に伝えられることだと思います。診療報酬加算については、学会としては引き続き働きかけていく予定ですが、将来加算がついた時点では、このフォローアップ体制の構築と研修受講が必須になることが予想されるので、そのあたりの準備も必要です。
Q
A そのあたりの正しい回答はありません。保険適応外の検査というのは、血液検査や心エコー、聴力検査などは、病態を説明することで保険適応とされることが多いと考えます。
通常のフォローアップ検査で特殊な検査や頻回に繰り返される検査でなければ、適応外として保険から削られることは多くないと考えています。
  • 経験者への質問

Q
A 入院当時の仲間と会う機会は、小児がん経験者の会や病院主催のキャンプ等で年に何度かあります。
同じ病院で生活を共にした仲間ですと、当時の思い出話が盛り上がることもあります。
また、話が盛り上がると、晩期合併症やそれに伴う心理社会的な課題についても話し合ったりします。
そのなかで同じ悩みや不安を抱えていることもたくさんありますし、それを解決するためにどうするべきなのかを一緒に考えたり話し合ったりします。 それが活動のモチベーションの一つとなっています。
  • AYA世代のがん患者

Q
A 就学期である思春期(Adolescents)と就労期である若年成人(Young Adults)においても困っていることは異なってくると考えられます。更に、同じ年齢であったとしても、がん種や治療状況、社会状況や心理状況においても小児がんに比べ個人差が大きいと考えられるため、画一的な対応は困難であり、個人が適切なヘルスリテラシーを獲得できるように、支援することが必要であると考えます。
 一人一人のがん患者に時間をかけて向き合い、困っていることを把握すること、その上で適切な情報を提供していくことが重要であると考えられます。一方、不妊を始めとした性の問題は医療者に打ち明けることが困難かつ、医療者からも質問し辛い問題です。厚生労働科学研究 がん対策推進総合研究事業:「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」においても、性行為、結婚、恋愛に関して情報を得ることができなかった、相談することができなかったというがん患者が多いというデータがあります。がん経験者のその後のQOLに大きく関与してくる問題であるため、医療者から積極的に情報を提供した方がよいと考えます。性の相談を話しやすいようなプライバシーを保てる場所を確保することも必要となってきます。
  • 入院時の心理・社会的な問題

Q
A 3世代のジェノグラム(家系図)とエコマップ(サポート関係の図)を描いてチームで共有し、協働で情報をアップデートしていくことをお薦めしています。
1.まず、家族の構造を描きながら把握します(きょうだい、妊娠中、biological parent か、祖父母、父母のきょうだい)。
 母親が妊娠中か、患児にきょうだいがいるか、父母を支えてくれる祖父母や叔父叔母がいるかは、大事な情報です。
2. それぞれの年齢や健康状態を聴取し、特記事項があれば記載します。
 父母の健康状態はもとより、患児のほかにも、父母が介護をしていたり、健康状態を気にかけたりしている家族員がいるかは、重要な情報です。
3. 同居家族を〇で囲み、他の親族の居住地を大まかに把握します(患児の自宅あるいは病院からの距離:徒歩圏内、車で〇分などと、記載します)。
 必要時に自宅や病院に来てもらえる人がいるかは、大事な情報です。
4. 患児やきょうだい、父母等の性格や嗜好と、患児の病気や入院について、どのように言ったり感じたりしているかを尋ねます。特記事項があれば、家系図に書き加えます。
 患児や父母がどんな思いで入院治療に臨んでいるのか、治療や闘病生活の中で何を一番心配しているのかを理解しておくことはとても重要です。あるいは、「祖父母には心配をかけるので知らせていない」など、開示を制限している場合には、支援が得られにくいため、注意しておく必要があります。
5. 患児や父母、きょうだいの、家庭以外での生活や家族以外とのつながりを聞いていきます。
 患児が、学校/保育園生活や部活、塾、習い事などで、何に注力してきたのか、仲のよい人・信頼している人は誰か、病気のことを開示している範囲、その人には入院中も相談できそうか、これからの進路をどのように考えてきたのか、入院するにあたり、学校等の生活上、気がかりなことは何かを、尋ねます。父母の職業生活や、きょうだいの学校生活等についても、順次把握していきます。
 患児やきょうだい、父母が、どんな生活を送っていたのかを、把握しておくことは重要です。それが続けられなくなることは、悲しいことである一方、再びできるようになることは、闘病生活に希望や目標を与えてくれます。また家族や医療者以外にも、相談できる相手がいるかどうかも把握しておきます。
1~5を尋ね、理解し、図示したら、回答した者は誰か(informant; 患児、父など)、聞き手は誰か(あなたの氏名)、記録した日時を明記します。随時、情報をアップデートするごとに、informant、聞き手の氏名、日時を、明記します。
  • 教育について

Q
A 同時に二つの学校に籍を置いたり、同じ学校の二つの学級(普通学級と特別支援学級)に同時に籍を置くことは、教職員算定(クラス数)に影響するため認められていません。なお、同時に複数の教育の場を利用するために自治体によって支援籍や副籍などの制度を作っているケースが少数ながらあります。現在制度化されているのは東京都、埼玉県、横浜市のみです。
(文部科学省:副次的な籍について
 また、他の学びの場での指導を在籍学級の学びとしてカウントすることが行われています。障害のある子どもの通級指導の他、日本語指導、不登校など対象が拡大しつつあり、病気の子どもにも適応されることを望む声があります。
  • その他

Q
A 本日の資料を院内の教育に使用していただくことは全くかまいません。ただその場合は、各セクションの最後にあるスライド内容の出典を示していただくようにお願いします。
  • 2017年度 第2回研修会 質疑応答

Q
A 就職先の会社に何を求めるか、会社の方針、どのような勤務体系で就職するかによります。一般常識の範囲で特別な配慮を要さない場合は記載の義務はないですし、多少の範囲であれば就職後に上司や健康管理部に説明して理解を得るという方法もあります。会社側に求める配慮が多くなる場合は、予め条件を提示して就職した方が、後々の就労の継続性や人間関係がスムーズと思います。
Q
A 小児がん治療後の合併症の話は、小児診療で対応して成人診療科につなぐ必要があると考えます。デリケートな問題については、相手の理解度や受容度を確認しながらステップバイステップで進めていく方がいいでしょう。特に未成年の場合、いきなり不妊の話に踏み込むのではなく、患児本人の二次性徴や生殖についての理解の確認と、保護者のご意向(どこまで伝えていいのか)の確認が必要です。医師と看護師で分担して、家族と本人を別々に面談するのもよいでしょう。また妊孕性や性の問題に限らず、「じゃあ次の受診の時はこんな話をしようか。」とテーマを提示して、気持ちの準備をさせる期間をおいてから進めるのもよいと思います。
Q
A 未告知であると、何のために病院に通院しなければならないかが理解できないのではないかと思います。晩期合併症の一つとして易疲労という問題もあり、それが様々な意欲の欠如に結びつくこともあると思いますが、病名の告知を受けていなければ何でそういうことがおこっているのかも理解が困難だと思います。
 小児がんは治っていても晩期合併症の心配が出てくるので、告知は控えた方がよいと言う意見の方もいらっしゃるとは思いますが、知っていて身体の状態に注意をしていれば、早期発見早期治療に結びつくことも少なくありません。
 告知しないで何も知らずに重篤な病気が取り返しの出来ない状況で発見されることと、心配するのはいやだと言うことの天秤はついて回ると思いますが、医療者としては、告知をして、身体に気をつけて生活した方がよりメリットはあるのではないかと思います。
Q
A 本研修会は1年目2回、2年目と3年目は4回ずつ行うと言うことで開始していますが、厚労省から委託されている事業で有り、予算が年度によって異なることがあります。そのため、3年目の回数に関して最終決定はまだしていません。
 毎回反省点をピックアップしてより良い研修会にすべき努力を行っています。まずは全国の小児がんを治療している医療者に長期フォローアップがなぜ必要か、晩期合併症についての理解や長期フォローアップの方法について理解していただけることを目標にしています。ただし参加者が1回50名となっていて、希望されてもなかなか受けられない方もいらっしゃると思います。どうしてもうけられない場合は、参加した方から実際に話を聞いていかれることも良いかと思っています。今後の計画としてAYA世代発症のがんについて、もう少し踏み込む予定になっています。
Q
A 治療終了後の疲労の原因は明確ではありません。身体的異常や精神心理的問題等、複数の要因が存在する場合も多いとされています。
 身体的問題では、低栄養、貧血、心機能異常、肺機能低下、肝機能障害、腎機能障害、胃腸障害(消化吸収障害)、神経障害、筋力低下、感染症、内分泌異常(甲状腺機能低下、性腺機能低下、副腎不全)等があります。鑑別に際して、投与中の薬剤の副作用や相互作用、アルコール摂取、違法薬物、サプリメント使用の有無などについても確認する必要があります。
 心理的問題では、原病再発に対する不安、日常生活の制限によるストレス、性的不満、社会経済的問題、家族友人関係などがあり、患者は、疲労とともに疼痛、睡眠障害、不安を訴えることも少なくなく、うつ状態に陥っている場合もあります。
 身体的問題に対しては、それぞれに対する治療を行いますが、身体的問題が認められない場合、適度な運動が疲労感の軽減に有効なこともあります。運動は、心肺機能低下や貧血、感染症の併発など運動に支障がないことを確認の上、実施してください。
 このほか、認知行動療法が有用であるとする報告もあります。
 疲労や倦怠感は、Cancer Fatigue Scaleなどのスケールを用いて評価するとよいでしょう。
 疲労感を訴えた場合、身体疾患の検索だけでなく、併用薬剤の見直しや、心理社会的問題についても注意深い問診を行い、専門医へのコンサルトを含め、多面的に検討する必要があると考えられます。
Q
A 女性の場合、2017年の妊孕性温存ガイドラインには、「パートナーの有無にかかわらず、卵巣組織凍結保存は将来的な技術の発展に期待して一部の施設で研究的に行われているが、白血病細胞の混入の危険性のために一般的には推奨されない。」とされ、白血病や卵巣がんでは禁忌との認識があるようです。初期の乳がんや肉腫などでは浸潤リスクは低いと考えられていますし、1コース後というのは浸潤リスクを下げるだろうという意味で同様にとらえられるようですが、今のところ2016年の日本産婦人科学会の会告では、未授精卵子、胚(受精卵)、卵巣組織凍結に関して、将来妊娠した場合の安全性も未知なことが多いため、十分な情報提供と被実施者の自己決定が重要としています。一方で腫瘍細胞混入の問題の克服のため、MRD検出や卵胞体外培養の研究なども進められており、将来的には卵巣組織凍結は有用なツールになりうる可能性があると考えられています。
 男性の場合は、ガイドラインで「可能な限り治療前の精子凍結保存が推奨」されています。精巣凍結保存はまだ実験段階です。
Q
A 退院後、誰に何をしてもらうために連携をしていくのかをまず病院内で関わっていたスタッフとともに検討する必要があると思います。保健師や訪問医療のサービス、療育センター、子ども家庭支援センター、幼稚園・保育園・学校など、地域には様々な連携先があります。どこのどのような職種と連携していくかにより、実際に院内の誰が連絡を取るかは病院の体制によっても違ってくると思いますが、それを話し合うためのカンファレンスも必要かもしれません。ソーシャルワーカー(以下、SW)がそのコーディネートを行っている病院が多いかと思います。
 ただし、地域や福祉との連携は地域性による差が大きく、都道府県単位、地方自治体、学校単位でもそれぞれ対応の異なる地域もみられます。また、病院の規模、公立、私立の差、このような支援に従事するSWなどの職種の有無や人員によっても異なると思われます。
 地域や病院によっては支援体制を構築する際に、病院からの問題提起、働きかけに大きな労力を要する場合もみられます。
 まず、必要な福祉、支援また就学、復学に関連した支援など、患者さん、ご家族の必要とする支援が都道府県単位、地方自治体どの単位での管轄下かを確認、判断することからはじめ、SWや病院内の関連部署の方、支援の母体となる地域の担当者との十分な打ち合わせ、定期的な情報交換までが必要になる場合もあると思われます。
Q
A 病気や治療の影響で障害が残ったり、長期間の入院により発達が遅れたりするケースがありますので、このようなときはリハビリの介入が必要なことが多くあると思います。ます。訪問リハビリが良いのか、療育センターなどを紹介するのが良いのかは、地域の資源を調べた上で、SWや病院内の関連部署の方、支援の母体となる地域の担当者と話し合いを行い、良いと思われる方法を家族や本人と選択していくのが良いでしょう。 退院後にもいろいろな状況に応じてリハビリの必要性のあるケースは多いと思われます。リハビリに関しても病院、地域での格差は大きく、退院後は通院リハビリを行わない施設、地域に小児のリハビリを行う施設がない場合、脳性麻痺や整形外科的な問題には対応可能でも、小児がん経験者の必要とする移植後の関節症状、体力低下、作業療法をふくめた指導などには不慣れなリハビリ施設もおおく、患者と地域の状況に応じてできるだけ必要なリハビリをおこなって頂けるような施設の選定、依頼、情報交換などが必要な場合もあります。
 地域差は大きいですが、制度や地域の状況など日常の医療以外にもいろいろな情報の収集や日頃からの顔合わせ、情報交換などは重要だと思われます。
Q
A 小児がんにおいて、成人診療科との連携の実例はまだ日本ではほとんどないと思います。成人医療への移行の課題に関しては、患者・保護者自身の問題、小児科側の問題、受け入れ側(成人医療)の問題に分けて考えられます。
 保護者には、患児に対する過剰な保護、小児医療への精神的な依存が生じやすく、小児がん経験者自身は自己管理能力の欠如(親への過剰な依存)が生じやすい点が挙げられます。小児がん診療医には、自分の患者・家族を手元から手放したくないような感覚がどうしてもあり、小児がん経験者の自己管理能力を育成する視点を欠如しがちです。一方内科・産婦人科・泌尿器科を初めとする成人診療科医は小児がん経験者の長期的な問題に関する関心や知識が少なく、高度に専門分化しているため総合的・全人的に患児を診る視点が乏しく小児がん経験者のニーズを満たさないという問題点があります。
 ただこの成人期移行医療は、小児がんに限った問題ではなく、あらゆる小児期発症の疾患で問題になっています。成人診療科にカウンターパートがない疾患に関しては、現在世界中で問題となっています。一朝一夕で解決する問題ではないと思いますが、小児科医側の認識はかなり変化してきているので、成人診療科側に関心をもってもらうこと、関心を持ってもらった人から徐々に受け入れ体制の整備をしていくこと、また移行医療に関してそのリーダーシップをとってもらえる成人診療科医の存在が必要かと思います。
 厚労省も、2018年度から移行期医療支援センターを各自治体に設置して、成人医療への移行を進めていこうとしていますので、今後は先進的な地区でモデルとなる連携を始めることが重要ではないかと思います。
Q
A 日本小児内分泌学会がだしている小児がん経験者(CCS)のための医師向けフォローアップガイド(ver1.2)では、「元の腫瘍の再発の危険性は治療終了後 2 年以内が多いので、可能なら GH 治療開始は 2 年後から開始するのがよい。ただ、本人・家族の早期の治療開始希望がある場合や歴年齢、骨年齢、Tanner stage が成人に近く伸びる期間があまりない場合には、本人・家族と相談して 2 年以内に GH 治療を開始する場合もある。残存腫瘍があれば、GH 治療は原則として禁忌であるが、本人・家族とよく相談しGH 治療するかどうか判断する。」としています。
 寛解の判断、残存腫瘍の判断がGH治療開始の判断にかかわることは少なくありません。固形腫瘍・脳腫瘍の場合、viabilityのない腫瘤が残存している状態だが寛解と考えられるという状態になることがありえますので、腫瘍を治療した主治医の寛解判断を含め、個別の相談になると思います。
Q
A 小児腫瘍医が成人医療に対応することは通常困難ですが、成人医療連携、地域医療連携のいずれをとっても、治療後の問題に対する知識が最もある小児腫瘍医が、情報の要の役割を果たす必要があると思います。今のところ全国統一した長期フォローアップ形式があるわけではないため、直接フォローアップするのか、間接的にフォローアップするのか等は、各施設の医療資源や考え方によって異なります。まだ現在はせいぜい壮年期までの晩期合併症についてしかわかっていませんので、小児がん経験者の加齢医学がどうなるかは今後の課題と思います。
Q
A 日本がん・生殖医療学会ホームページに未授精卵子・卵巣組織凍結実施施設一覧がありますので参照してください。思春期前の卵巣保存は施設の研究ベースになるので、実施施設への問い合わせをお勧めします。特定非営利活動法人日本がん・生殖医療学会ホームページ(http://www.j-sfp.org/ovarian/index.html
Q
A BNPは心不全マーカーでありますが、少しの身体の変化、たとえば多少水分が足りなかった等些細なことで二桁の上の方の値が出ることがあります。100前後に急に上昇したときは症状がとくになければ、2週間から1か月の間隔で再検査をするのがよいのではないかと思います。不整脈や息切れ、動悸などがあれば、エコーや心電図検査を行うことが必要だと思います。またEFは心臓の収縮期の機能であり、アントラサイクリンの心機能障害ではそれより前に拡張能が障害を受けることが多いので、心エコーであれば、E/A等の拡張期能を見ることが大切だと思います。ご質問にあるBNPだけが異常である場合でもアンギオテンシン変換酵素阻害薬などで早めに治療を行うことにより、心機能の改善がみられる場合もあり、EF だけや症状だけで判断するのは少し危険なこともあると思います。アントラサイクリンは250mg/m2使用しなくても心臓に負荷をかける検査(運動負荷試験やドブタミン負荷試験など)では多少の異常が出ることがあります。それが即、心不全に進むと言うことではないと思いますが、EFや症状だけでの判断ではなく、BNPなど他の検査も必要だとの理解をしていただくのがよいと思います。また異常が出た時には再検査を行うことは重要だと思います。最近よく使われるNT ProBNPはBNPの6倍を基準としています。心不全のカットオフ値を125以下としています。
Q
A 本邦の小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、治療終了5年以降について、それまでの検査で異常がある例や咳嗽、喘鳴がある例は年1回、レントゲンと肺機能を行うことを推奨しています。ご質問の肺機能検査で異常がない方でも、喫煙などの生活習慣や肺炎等の呼吸器感染症に罹患ということがありますと、長期的には肺機能低下をきたす可能性があります。肺機能検査は必須ではないと思いますが、動悸、息切れ、咳嗽や喘鳴、胸痛、疲労感の有無等について問診を行う、もしくはこのような症状があれば、受診をしていただくよう説明しておかれたほうがよいと思います。
Q
A 腰椎の骨密度が大腿骨の骨密度よりも著しく低下していることは、照射の直接的な影響と考えます。
 小児で頭蓋脊椎照射を行った症例では、成人身長に達した際に四肢に比べて体幹(座高)がプロポーション的に短くなることから、本症例では腰椎骨密度と大腿骨骨密度との間に相違が起こっていると思います。
 そう考えるとsystemicには-2SD程度の骨密度であると推測できます。文面からは臨床的に頻回の骨折歴を有している状態ではなさそうですが、腰椎の骨密度が著しく低下していることから今後は骨折を起こす可能性が大であり、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」などを参考にし、一般的な骨粗鬆症の予防と治療が無難かもしれません。
 ただし、照射で直接的に影響を受けた腰椎がどのくらい回復できるのかは、不明です。
 GH補充療法に関しては、成長ホルモン(GH)と骨代謝には密接な関係があります。詳細は割愛しますが、結果的にGHは骨密度を増加させます。
 これは閉経後女性骨粗鬆症患者にGH治療を行い、(IGF-1値の増加とともに)骨密度の増加と骨折回数の減少が示されており、GHの骨密度を増加させる根拠となっています。
 また成人成長ホルモン分泌不全症(aGHD)患者にGH治療を行うと骨密度が増加することからも、臨床的には有効と考えられています。

 ただし、これらにはいくつかの制約・条件があります。
・本症例でGH治療を行った場合に腰椎の骨密度が改善するか?
効果がゼロということはないと思いますが、臨床的に有効であるかどうかは「?」です。
もちろん「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」などにGH治療が有効であるとの記載はないと思います。
腰椎は照射の直接的な影響を細胞レベル(GHの受容体を含む)で受けていますので、GH補充療法を行ったとしても効果は期待薄と思われます(あまり科学的な根拠は持ち合わせていませんが)。