Q&A

はじめに

 このQ&A集は、「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制事業」が行う研修会(LCAS)の終了後に受講者に対して行ったアンケートに記載された質問に対し、研修会スタッフが手分けして回答を作成したもので、治療ガイドラインなどとは異なります。研修会のスケジュール上、十分な質疑応答の時間をお割けなかったことに対する補完の意味も含めて作成しております。受講者のみならず、小児がんの長期フォローに携わる様々な医療スタッフのお役にたてば幸いです。

Q&A

※質問内容をクリックすると回答が表示されます。

  • 診療報酬など

Q
A 小児・AYA世代がんに対する長期フォローアップの重要性についての成人領域の医師の認識が遅れていることは否めません。特に、消化器がんなどには治癒後のフォローアップは5年までと記載されているものもあります。この認識を変革すること、移行期医療も含めて小児、AYA世代がんを成人領域の診療科に如何につなぐかが課題となっています。上手な連携をとるためには、まずは患者個人個人が自分の病態を把握して成人になったあとはかかりつけ医を見つけて相談し続けることだと思います。そのためにも、患者に正しい情報を周知することが第一で、この病態を理解してくれるかかりつけ医を連携することが現実的と考えます。ライフステージに応じたがん診療が第3期がん対策にもりこまれています。こうした状況は、診療報酬加算の働きかけには追い風ですが、まずは、成人領域も含めて長期フォローアップを行うことで患者にどの程度メリットがあるのか(できれば医療経済的に)を示すことが診療報酬加算へは重要であり、そのエビデンスを集めて学会としては働きかけを行っています。
Q
A 現在、小児がん拠点病院が再度認定され、それとともに今回は連携病院の指定がおこなわれます。ネットワークを介して、小児がんやAYA世代がんの患者の診療やフォローを行う体制が組まれようとしています。連携病院の要件の中に長期フォローアップ体制の構築が求められているので、この事業の研修を受講することともに体制構築の必要性を大学病院に伝えられることだと思います。診療報酬加算については、学会としては引き続き働きかけていく予定ですが、将来加算がついた時点では、このフォローアップ体制の構築と研修受講が必須になることが予想されるので、そのあたりの準備も必要です。
Q
A そのあたりの正しい回答はありません。保険適応外の検査というのは、血液検査や心エコー、聴力検査などは、病態を説明することで保険適応とされることが多いと考えます。
通常のフォローアップ検査で特殊な検査や頻回に繰り返される検査でなければ、適応外として保険から削られることは多くないと考えています。
  • 経験者への質問

Q
A 入院当時の仲間と会う機会は、小児がん経験者の会や病院主催のキャンプ等で年に何度かあります。
同じ病院で生活を共にした仲間ですと、当時の思い出話が盛り上がることもあります。
また、話が盛り上がると、晩期合併症やそれに伴う心理社会的な課題についても話し合ったりします。
そのなかで同じ悩みや不安を抱えていることもたくさんありますし、それを解決するためにどうするべきなのかを一緒に考えたり話し合ったりします。 それが活動のモチベーションの一つとなっています。
  • AYA世代のがん患者

Q
A 就学期である思春期(Adolescents)と就労期である若年成人(Young Adults)においても困っていることは異なってくると考えられます。更に、同じ年齢であったとしても、がん種や治療状況、社会状況や心理状況においても小児がんに比べ個人差が大きいと考えられるため、画一的な対応は困難であり、個人が適切なヘルスリテラシーを獲得できるように、支援することが必要であると考えます。
 一人一人のがん患者に時間をかけて向き合い、困っていることを把握すること、その上で適切な情報を提供していくことが重要であると考えられます。一方、不妊を始めとした性の問題は医療者に打ち明けることが困難かつ、医療者からも質問し辛い問題です。厚生労働科学研究 がん対策推進総合研究事業:「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」においても、性行為、結婚、恋愛に関して情報を得ることができなかった、相談することができなかったというがん患者が多いというデータがあります。がん経験者のその後のQOLに大きく関与してくる問題であるため、医療者から積極的に情報を提供した方がよいと考えます。性の相談を話しやすいようなプライバシーを保てる場所を確保することも必要となってきます。
  • 入院時の心理・社会的な問題

Q
A 3世代のジェノグラム(家系図)とエコマップ(サポート関係の図)を描いてチームで共有し、協働で情報をアップデートしていくことをお薦めしています。
1.まず、家族の構造を描きながら把握します(きょうだい、妊娠中、biological parent か、祖父母、父母のきょうだい)。
 母親が妊娠中か、患児にきょうだいがいるか、父母を支えてくれる祖父母や叔父叔母がいるかは、大事な情報です。
2. それぞれの年齢や健康状態を聴取し、特記事項があれば記載します。
 父母の健康状態はもとより、患児のほかにも、父母が介護をしていたり、健康状態を気にかけたりしている家族員がいるかは、重要な情報です。
3. 同居家族を〇で囲み、他の親族の居住地を大まかに把握します(患児の自宅あるいは病院からの距離:徒歩圏内、車で〇分などと、記載します)。
 必要時に自宅や病院に来てもらえる人がいるかは、大事な情報です。
4. 患児やきょうだい、父母等の性格や嗜好と、患児の病気や入院について、どのように言ったり感じたりしているかを尋ねます。特記事項があれば、家系図に書き加えます。
 患児や父母がどんな思いで入院治療に臨んでいるのか、治療や闘病生活の中で何を一番心配しているのかを理解しておくことはとても重要です。あるいは、「祖父母には心配をかけるので知らせていない」など、開示を制限している場合には、支援が得られにくいため、注意しておく必要があります。
5. 患児や父母、きょうだいの、家庭以外での生活や家族以外とのつながりを聞いていきます。
 患児が、学校/保育園生活や部活、塾、習い事などで、何に注力してきたのか、仲のよい人・信頼している人は誰か、病気のことを開示している範囲、その人には入院中も相談できそうか、これからの進路をどのように考えてきたのか、入院するにあたり、学校等の生活上、気がかりなことは何かを、尋ねます。父母の職業生活や、きょうだいの学校生活等についても、順次把握していきます。
 患児やきょうだい、父母が、どんな生活を送っていたのかを、把握しておくことは重要です。それが続けられなくなることは、悲しいことである一方、再びできるようになることは、闘病生活に希望や目標を与えてくれます。また家族や医療者以外にも、相談できる相手がいるかどうかも把握しておきます。
1~5を尋ね、理解し、図示したら、回答した者は誰か(informant; 患児、父など)、聞き手は誰か(あなたの氏名)、記録した日時を明記します。随時、情報をアップデートするごとに、informant、聞き手の氏名、日時を、明記します。
  • 教育について

Q
A 同時に二つの学校に籍を置いたり、同じ学校の二つの学級(普通学級と特別支援学級)に同時に籍を置くことは、教職員算定(クラス数)に影響するため認められていません。なお、同時に複数の教育の場を利用するために自治体によって支援籍や副籍などの制度を作っているケースが少数ながらあります。現在制度化されているのは東京都、埼玉県、横浜市のみです。
(文部科学省:副次的な籍について
 また、他の学びの場での指導を在籍学級の学びとしてカウントすることが行われています。障害のある子どもの通級指導の他、日本語指導、不登校など対象が拡大しつつあり、病気の子どもにも適応されることを望む声があります。
  • その他

Q
A 本日の資料を院内の教育に使用していただくことは全くかまいません。ただその場合は、各セクションの最後にあるスライド内容の出典を示していただくようにお願いします。
  • 2017年度 第2回研修会 質疑応答

Q
A 就職先の会社に何を求めるか、会社の方針、どのような勤務体系で就職するかによります。一般常識の範囲で特別な配慮を要さない場合は記載の義務はないですし、多少の範囲であれば就職後に上司や健康管理部に説明して理解を得るという方法もあります。会社側に求める配慮が多くなる場合は、予め条件を提示して就職した方が、後々の就労の継続性や人間関係がスムーズと思います。
Q
A 小児がん治療後の合併症の話は、小児診療で対応して成人診療科につなぐ必要があると考えます。デリケートな問題については、相手の理解度や受容度を確認しながらステップバイステップで進めていく方がいいでしょう。特に未成年の場合、いきなり不妊の話に踏み込むのではなく、患児本人の二次性徴や生殖についての理解の確認と、保護者のご意向(どこまで伝えていいのか)の確認が必要です。医師と看護師で分担して、家族と本人を別々に面談するのもよいでしょう。また妊孕性や性の問題に限らず、「じゃあ次の受診の時はこんな話をしようか。」とテーマを提示して、気持ちの準備をさせる期間をおいてから進めるのもよいと思います。
Q
A 未告知であると、何のために病院に通院しなければならないかが理解できないのではないかと思います。晩期合併症の一つとして易疲労という問題もあり、それが様々な意欲の欠如に結びつくこともあると思いますが、病名の告知を受けていなければ何でそういうことがおこっているのかも理解が困難だと思います。
 小児がんは治っていても晩期合併症の心配が出てくるので、告知は控えた方がよいと言う意見の方もいらっしゃるとは思いますが、知っていて身体の状態に注意をしていれば、早期発見早期治療に結びつくことも少なくありません。
 告知しないで何も知らずに重篤な病気が取り返しの出来ない状況で発見されることと、心配するのはいやだと言うことの天秤はついて回ると思いますが、医療者としては、告知をして、身体に気をつけて生活した方がよりメリットはあるのではないかと思います。
Q
A 本研修会は1年目2回、2年目と3年目は4回ずつ行うと言うことで開始していますが、厚労省から委託されている事業で有り、予算が年度によって異なることがあります。そのため、3年目の回数に関して最終決定はまだしていません。
 毎回反省点をピックアップしてより良い研修会にすべき努力を行っています。まずは全国の小児がんを治療している医療者に長期フォローアップがなぜ必要か、晩期合併症についての理解や長期フォローアップの方法について理解していただけることを目標にしています。ただし参加者が1回50名となっていて、希望されてもなかなか受けられない方もいらっしゃると思います。どうしてもうけられない場合は、参加した方から実際に話を聞いていかれることも良いかと思っています。今後の計画としてAYA世代発症のがんについて、もう少し踏み込む予定になっています。
Q
A 治療終了後の疲労の原因は明確ではありません。身体的異常や精神心理的問題等、複数の要因が存在する場合も多いとされています。
 身体的問題では、低栄養、貧血、心機能異常、肺機能低下、肝機能障害、腎機能障害、胃腸障害(消化吸収障害)、神経障害、筋力低下、感染症、内分泌異常(甲状腺機能低下、性腺機能低下、副腎不全)等があります。鑑別に際して、投与中の薬剤の副作用や相互作用、アルコール摂取、違法薬物、サプリメント使用の有無などについても確認する必要があります。
 心理的問題では、原病再発に対する不安、日常生活の制限によるストレス、性的不満、社会経済的問題、家族友人関係などがあり、患者は、疲労とともに疼痛、睡眠障害、不安を訴えることも少なくなく、うつ状態に陥っている場合もあります。
 身体的問題に対しては、それぞれに対する治療を行いますが、身体的問題が認められない場合、適度な運動が疲労感の軽減に有効なこともあります。運動は、心肺機能低下や貧血、感染症の併発など運動に支障がないことを確認の上、実施してください。
 このほか、認知行動療法が有用であるとする報告もあります。
 疲労や倦怠感は、Cancer Fatigue Scaleなどのスケールを用いて評価するとよいでしょう。
 疲労感を訴えた場合、身体疾患の検索だけでなく、併用薬剤の見直しや、心理社会的問題についても注意深い問診を行い、専門医へのコンサルトを含め、多面的に検討する必要があると考えられます。
Q
A 女性の場合、2017年の妊孕性温存ガイドラインには、「パートナーの有無にかかわらず、卵巣組織凍結保存は将来的な技術の発展に期待して一部の施設で研究的に行われているが、白血病細胞の混入の危険性のために一般的には推奨されない。」とされ、白血病や卵巣がんでは禁忌との認識があるようです。初期の乳がんや肉腫などでは浸潤リスクは低いと考えられていますし、1コース後というのは浸潤リスクを下げるだろうという意味で同様にとらえられるようですが、今のところ2016年の日本産婦人科学会の会告では、未授精卵子、胚(受精卵)、卵巣組織凍結に関して、将来妊娠した場合の安全性も未知なことが多いため、十分な情報提供と被実施者の自己決定が重要としています。一方で腫瘍細胞混入の問題の克服のため、MRD検出や卵胞体外培養の研究なども進められており、将来的には卵巣組織凍結は有用なツールになりうる可能性があると考えられています。
 男性の場合は、ガイドラインで「可能な限り治療前の精子凍結保存が推奨」されています。精巣凍結保存はまだ実験段階です。
Q
A 退院後、誰に何をしてもらうために連携をしていくのかをまず病院内で関わっていたスタッフとともに検討する必要があると思います。保健師や訪問医療のサービス、療育センター、子ども家庭支援センター、幼稚園・保育園・学校など、地域には様々な連携先があります。どこのどのような職種と連携していくかにより、実際に院内の誰が連絡を取るかは病院の体制によっても違ってくると思いますが、それを話し合うためのカンファレンスも必要かもしれません。ソーシャルワーカー(以下、SW)がそのコーディネートを行っている病院が多いかと思います。
 ただし、地域や福祉との連携は地域性による差が大きく、都道府県単位、地方自治体、学校単位でもそれぞれ対応の異なる地域もみられます。また、病院の規模、公立、私立の差、このような支援に従事するSWなどの職種の有無や人員によっても異なると思われます。
 地域や病院によっては支援体制を構築する際に、病院からの問題提起、働きかけに大きな労力を要する場合もみられます。
 まず、必要な福祉、支援また就学、復学に関連した支援など、患者さん、ご家族の必要とする支援が都道府県単位、地方自治体どの単位での管轄下かを確認、判断することからはじめ、SWや病院内の関連部署の方、支援の母体となる地域の担当者との十分な打ち合わせ、定期的な情報交換までが必要になる場合もあると思われます。
Q
A 病気や治療の影響で障害が残ったり、長期間の入院により発達が遅れたりするケースがありますので、このようなときはリハビリの介入が必要なことが多くあると思います。ます。訪問リハビリが良いのか、療育センターなどを紹介するのが良いのかは、地域の資源を調べた上で、SWや病院内の関連部署の方、支援の母体となる地域の担当者と話し合いを行い、良いと思われる方法を家族や本人と選択していくのが良いでしょう。 退院後にもいろいろな状況に応じてリハビリの必要性のあるケースは多いと思われます。リハビリに関しても病院、地域での格差は大きく、退院後は通院リハビリを行わない施設、地域に小児のリハビリを行う施設がない場合、脳性麻痺や整形外科的な問題には対応可能でも、小児がん経験者の必要とする移植後の関節症状、体力低下、作業療法をふくめた指導などには不慣れなリハビリ施設もおおく、患者と地域の状況に応じてできるだけ必要なリハビリをおこなって頂けるような施設の選定、依頼、情報交換などが必要な場合もあります。
 地域差は大きいですが、制度や地域の状況など日常の医療以外にもいろいろな情報の収集や日頃からの顔合わせ、情報交換などは重要だと思われます。
Q
A 小児がんにおいて、成人診療科との連携の実例はまだ日本ではほとんどないと思います。成人医療への移行の課題に関しては、患者・保護者自身の問題、小児科側の問題、受け入れ側(成人医療)の問題に分けて考えられます。
 保護者には、患児に対する過剰な保護、小児医療への精神的な依存が生じやすく、小児がん経験者自身は自己管理能力の欠如(親への過剰な依存)が生じやすい点が挙げられます。小児がん診療医には、自分の患者・家族を手元から手放したくないような感覚がどうしてもあり、小児がん経験者の自己管理能力を育成する視点を欠如しがちです。一方内科・産婦人科・泌尿器科を初めとする成人診療科医は小児がん経験者の長期的な問題に関する関心や知識が少なく、高度に専門分化しているため総合的・全人的に患児を診る視点が乏しく小児がん経験者のニーズを満たさないという問題点があります。
 ただこの成人期移行医療は、小児がんに限った問題ではなく、あらゆる小児期発症の疾患で問題になっています。成人診療科にカウンターパートがない疾患に関しては、現在世界中で問題となっています。一朝一夕で解決する問題ではないと思いますが、小児科医側の認識はかなり変化してきているので、成人診療科側に関心をもってもらうこと、関心を持ってもらった人から徐々に受け入れ体制の整備をしていくこと、また移行医療に関してそのリーダーシップをとってもらえる成人診療科医の存在が必要かと思います。
 厚労省も、2018年度から移行期医療支援センターを各自治体に設置して、成人医療への移行を進めていこうとしていますので、今後は先進的な地区でモデルとなる連携を始めることが重要ではないかと思います。
Q
A 日本小児内分泌学会がだしている小児がん経験者(CCS)のための医師向けフォローアップガイド(ver1.2)では、「元の腫瘍の再発の危険性は治療終了後 2 年以内が多いので、可能なら GH 治療開始は 2 年後から開始するのがよい。ただ、本人・家族の早期の治療開始希望がある場合や歴年齢、骨年齢、Tanner stage が成人に近く伸びる期間があまりない場合には、本人・家族と相談して 2 年以内に GH 治療を開始する場合もある。残存腫瘍があれば、GH 治療は原則として禁忌であるが、本人・家族とよく相談しGH 治療するかどうか判断する。」としています。
 寛解の判断、残存腫瘍の判断がGH治療開始の判断にかかわることは少なくありません。固形腫瘍・脳腫瘍の場合、viabilityのない腫瘤が残存している状態だが寛解と考えられるという状態になることがありえますので、腫瘍を治療した主治医の寛解判断を含め、個別の相談になると思います。
Q
A 小児腫瘍医が成人医療に対応することは通常困難ですが、成人医療連携、地域医療連携のいずれをとっても、治療後の問題に対する知識が最もある小児腫瘍医が、情報の要の役割を果たす必要があると思います。今のところ全国統一した長期フォローアップ形式があるわけではないため、直接フォローアップするのか、間接的にフォローアップするのか等は、各施設の医療資源や考え方によって異なります。まだ現在はせいぜい壮年期までの晩期合併症についてしかわかっていませんので、小児がん経験者の加齢医学がどうなるかは今後の課題と思います。
Q
A 日本がん・生殖医療学会ホームページに未授精卵子・卵巣組織凍結実施施設一覧がありますので参照してください。思春期前の卵巣保存は施設の研究ベースになるので、実施施設への問い合わせをお勧めします。特定非営利活動法人日本がん・生殖医療学会ホームページ(http://www.j-sfp.org/ovarian/index.html
Q
A BNPは心不全マーカーでありますが、少しの身体の変化、たとえば多少水分が足りなかった等些細なことで二桁の上の方の値が出ることがあります。100前後に急に上昇したときは症状がとくになければ、2週間から1か月の間隔で再検査をするのがよいのではないかと思います。不整脈や息切れ、動悸などがあれば、エコーや心電図検査を行うことが必要だと思います。またEFは心臓の収縮期の機能であり、アントラサイクリンの心機能障害ではそれより前に拡張能が障害を受けることが多いので、心エコーであれば、E/A等の拡張期能を見ることが大切だと思います。ご質問にあるBNPだけが異常である場合でもアンギオテンシン変換酵素阻害薬などで早めに治療を行うことにより、心機能の改善がみられる場合もあり、EF だけや症状だけで判断するのは少し危険なこともあると思います。アントラサイクリンは250mg/m2使用しなくても心臓に負荷をかける検査(運動負荷試験やドブタミン負荷試験など)では多少の異常が出ることがあります。それが即、心不全に進むと言うことではないと思いますが、EFや症状だけでの判断ではなく、BNPなど他の検査も必要だとの理解をしていただくのがよいと思います。また異常が出た時には再検査を行うことは重要だと思います。最近よく使われるNT ProBNPはBNPの6倍を基準としています。心不全のカットオフ値を125以下としています。
Q
A 本邦の小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインでは、治療終了5年以降について、それまでの検査で異常がある例や咳嗽、喘鳴がある例は年1回、レントゲンと肺機能を行うことを推奨しています。ご質問の肺機能検査で異常がない方でも、喫煙などの生活習慣や肺炎等の呼吸器感染症に罹患ということがありますと、長期的には肺機能低下をきたす可能性があります。肺機能検査は必須ではないと思いますが、動悸、息切れ、咳嗽や喘鳴、胸痛、疲労感の有無等について問診を行う、もしくはこのような症状があれば、受診をしていただくよう説明しておかれたほうがよいと思います。
Q
A 腰椎の骨密度が大腿骨の骨密度よりも著しく低下していることは、照射の直接的な影響と考えます。
 小児で頭蓋脊椎照射を行った症例では、成人身長に達した際に四肢に比べて体幹(座高)がプロポーション的に短くなることから、本症例では腰椎骨密度と大腿骨骨密度との間に相違が起こっていると思います。
 そう考えるとsystemicには-2SD程度の骨密度であると推測できます。文面からは臨床的に頻回の骨折歴を有している状態ではなさそうですが、腰椎の骨密度が著しく低下していることから今後は骨折を起こす可能性が大であり、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」などを参考にし、一般的な骨粗鬆症の予防と治療が無難かもしれません。
 ただし、照射で直接的に影響を受けた腰椎がどのくらい回復できるのかは、不明です。
 GH補充療法に関しては、成長ホルモン(GH)と骨代謝には密接な関係があります。詳細は割愛しますが、結果的にGHは骨密度を増加させます。
 これは閉経後女性骨粗鬆症患者にGH治療を行い、(IGF-1値の増加とともに)骨密度の増加と骨折回数の減少が示されており、GHの骨密度を増加させる根拠となっています。
 また成人成長ホルモン分泌不全症(aGHD)患者にGH治療を行うと骨密度が増加することからも、臨床的には有効と考えられています。

 ただし、これらにはいくつかの制約・条件があります。
・本症例でGH治療を行った場合に腰椎の骨密度が改善するか?
効果がゼロということはないと思いますが、臨床的に有効であるかどうかは「?」です。
もちろん「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」などにGH治療が有効であるとの記載はないと思います。
腰椎は照射の直接的な影響を細胞レベル(GHの受容体を含む)で受けていますので、GH補充療法を行ったとしても効果は期待薄と思われます(あまり科学的な根拠は持ち合わせていませんが)。
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